南部杜氏

南部杜氏の技が受け継がれ、珠玉の一滴をつくり上げてきた蔵。
伝統の重みを感じさせる。


黒ずんだ大黒柱と白い内壁が蔵の歴史を感じさせる。しめ縄を張った井戸水が入り口にあった。酒造りの命とも言える仕込み水だ。口に含むとほのかな甘みがあった。

二戸市福岡の南部美人。県酒造組合会長も務める同社代表取締役の久慈浩さん(64)は「ここの水は中硬水。酒には硬すぎても、軟らかすぎてもだめ」と語る。奥羽山脈と北上高地の山々が連なり、豊かな自然が残る岩手の地。山、大地にしみ込んだ雨水は、ミネラル分豊富なおいしい水として地表にわき出し、大地が米をはぐくむ。そして、日本三大杜氏の一つに数えられる酒造り集団「南部杜氏」。これらがうまくかみ合い、出来上がるのが岩手の日本酒なのだ。
農家の副業として、その技が受け継がれてきた南部杜氏。「年に何度も講習会を開き、研さんを積んでいる。南部杜氏ほど勉強している集団はないのではないか。」久慈さんは言う。

全国新酒鑑評会で金賞十九回という名杜氏平野佐五郎(1900-81年)を筆頭に、数々の名だたる人材を輩出。その本県にも伝統に加え、新しい風が吹き始めている。若手後継者、女性杜氏らが徐々に増えているのだ。
現代は、ふんどし姿で作業する風景は消え去り、ユニホームを着て作業に携わる。男性だけの職場というイメージは変わりつつある。「大事なのは味、香りをしっかりみることができるか。女性には鋭い感覚がある。四、五十代の女性に合う酒を目指してほしい。」久慈さんも奮起に期待する。

日本酒への追い風も吹いてきた。手ごろな値段で買え、吟醸酒などもあるカップ酒が若者、女性を中心に注目を集め、再び人気に火がつき始めた。 そこで、県酒造組合が提案するのが、「和らぎ水」と「燗(かん)酒」の提案だ。和らぎ水は、盛岡市大通のJIZAKE-BAR蔵でも常設。日本酒を飲む合間に時々水を飲んで深酔いを防ぐ。燗酒も和らぎ水を挟みながら飲むと「日本酒を飲むと二日酔いになる」との風評も心配なさそうだ。
「燗酒は飲みすぎず、料理、会話を楽しみながら楽しめる。差しつ、差されつのやり取りが人間関係もつなぐ。とっくりに入れて温めて飲んでもらいたい。」
和食、中華、洋食と合わせる料理も選ばない日本酒。「中華であればコシのある酸の効いた純米酒や三年古酒。ステーキには吟醸酒、生酒もいい」。久慈さんは勧める。

県酒造組合では、若手経営者らが中心に「世界南部杜氏サミット」を開催し、日本酒の楽しみ方を県内外に発信。紫波町では、町と町内四酒造店が連携し、町内産の米と酵母を使った純米吟醸酒「しあわせ夢紫舞(ゆめしまい)」を造るなど新たな試みも始まっている。

2005年の日本酒輸出額は三年連続で過去最高を記録。国内外ともにプラス要因が出始めている。久慈さんは「まず岩手県民にもっと南部杜氏の技、岩手の清酒の良さを知ってもらい、誇りを持って広く発信していただきたい」と呼びかけている。

久慈浩 氏

「メリハリがある四季、良い水、南部杜氏の技術が良い酒をつくる。
岩手には合わせる食材も豊富」と語る久慈浩さん

酒器

岩手伝統の技のコラボレーション。
久慈浩さんの前にある熱燗セットは、南部鉄器の
中に徳利を入れて酒を温める。
燃料には遠赤外線効果抜群の南部ナラ炭を。
(協力:盛岡手づくり村)